空を見上げれば、塵でも降りそうな灰色の雲が空を覆っていた。
 あの頃の俺から見れば、雪なんていうものはとても醜いものにしか思えなかった。

  +White Christmas+

 一歩外に出ると、いつも以上の人の波。慌しく行ったり来たりする大人達。
 辺りは少しずつ闇に包まれていく。街はイルミネーションで飾られ、いつもとは違う顔をしている。
「今日は、何かの行事なのか?」
 無線に話し掛けてみる。昔から行事などに関心も関わりもなく来てしまった為、今でも行事は他人事。
『フェイトさん…。少しくらい世間を知ったほうがいいですよ?』
「関係ないな。世間を知らなくても仕事は出来る」
『今までは、そうでしたけど。今年は関係ないとは言わせません!ライトさんも朝ちゃんと言ってましたよね』
「……」
『もしかして忘れたんですか?!』
 何故お前がそこまで驚くのか。でも、ライトが朝なんと言っていたか…。
「夕食は一緒に食おうと言っていた」
『今日の日をちゃんと説明してくれていましたよ!』
 要点が合っていればそれで問題ない気がする。
 約束を忘れるならまだしも、そんなことを忘れても問題にはならないだろう。
『フェイトさん、今 約束さえ覚えていれば大丈夫的なことを思いませんでしたか』
「……」
『今日はクリスマスですよ…』
 そう言えば、ライトが朝何か言っていた気がする。誰かの生まれた日だか、死んだ日だかと…。
「で、なぜその死んだ日か生まれた日がこんなに盛大に盛り上がっているんだ」
『この国の悪い習慣です…。本来はイエス・キリストの降誕(誕生)を祝うキリスト教の記念日・祭日で、「神様が人間として産まれてきてくださったこと」を祝うことが本質みたいですし。何故かお祭りが大好きみたいで、この国の人々は…』
「…どこが楽しいんだ?」
『この国の人たちにとっては一緒に過ごしたりプレゼントを贈る日と思われているんです。特に、カップルなんかには』
「買っていった方がいいのか?」
『そちらの方が喜ばれると思いますよ』
 一通りの散歩も終え、助言を得ながらライトへのプレゼントを購入し、ホームへと戻る。
 空を見上げれば灰色の雲が覆っており、今にも雪が降り出しそうな空模様だった。

「おかえり、フェイト。遅かったな」
「あぁ…、ただいま。道草を食っていたら遅くなった。悪かったな」
「今さら改まるなよ。ほら、飯食おうぜ」
 ホームに着けば温かい夕食と笑顔が待っていた。
 その雰囲気に心が安らぎ安堵する。
「フェイトって、クリスマスとか初めてだよな?」
「ああ。ドームの外に居た時は、街全体が光って見えて銃撃戦でもやっているのかと思っていたが…」
「……」『……』
「…でも、一歩中に入ったらそんなことすら忘れていたな」
 仕事仕事の日々だったから。
 そういうフェイトにライトが堪えきれなくなった。
「フェイト、精一杯俺の時間を使ってお前を幸せにしてやる、な?」
 不意に力一杯抱き締められる。
「…充分、幸せだ」
 呟くような声で言ったその言葉が、自分にライトに安心感を与えた。
 気付かなかったんだ。お前に出会うまで。
 人々の、慌しい中でも幸せそうなあの笑顔。
 仕事帰りの父親や、両親と揃って買い物に出かけてきた子供の表情。
 気付く余裕もなかったあの頃とは、比べ物にならないくらい変わった。
「メリークリスマス…、…ライト」
「フェイト…、お前…」
 差し出したのは一つのネックレース。小さな十字架をかたどったもので、気に入ってくれればいいなと思った。
「サンキュー。絶対に大切にするなw」
 そして、「じゃあ俺からも」と言って差し出してきたのは一つのシンプルな指輪。
「手、出して。左手な」
 訳のわからないまま、手を出す。
 するとライトはケースに納まっていた指輪を取り、俺の薬指にはめた。
「ライト…?」
「一緒に、居ようなw」
「あぁ」
 左手についた指輪を眺める。それが特別なもののように思えた。
 いや、特別なんだ。ライトに貰った、特別なもの。
「気に入ったか?」
「ああ。ライト、ありがとう」
「フェイト…」
 唇を重ね、互いを求める。
 窓の外を見ると雪が降り始めていて。
 昔は、雪などと言うものは、冷たく残酷にしか思えなかったけど、今は、温かくて綺麗なもののように思えた。

 ライトが死ぬ、何年か前のお話。