月の明るい夜だった。廃墟が立ち並ぶ、荒れ野原。
 何故此処にいるのかがわからない。気がつけば、銃を片手に生き残ることに精一杯だった。

  +第一夜+

 冷たい空気。気分が悪くなる悪臭。それらも、全部慣れた。
 人を殺すことも、もう躊躇いもない。
 子供の頃、何故自分がこんなところにいるのかわからなかった。
 そして気付いたときには握っていた、この銃も誰のものなのかは今もわからないままだった。
 物心がつくまで、誰かに拾われて育てられていた記憶はある。
 その中で、言葉を学び、人の殺し方も教わった。
 しかし、五歳にもならないうちに、俺を育てていたその人も、政府に捕まり殺された。
 俺たちは人並み以下の扱いしか受けない。政府たちは武装して、時より俺たちを殺しに来る。
 強い奴は生き残れる。それが此処のルールだった。
 そして八歳のとき、俺はある組織に買われた。
 俺はその組織の犬だ。自由にもなれない。殺して殺して殺しまくる日々。
 働けば、そのぶんある程度の食事と、金が支給される。
 いつ死んでも、おかしくない日常。それでも、俺は此処に居る。
 行く宛てなんて、ないのだから。だから、此処に居る。
 此処に居れば、銃の補充だって楽だから。俺は此処を利用しているし、此処は俺を利用している。
 等価交換というわけではないけれど、此処に居る十分な理由はあるはずだ。
 そして、今日も仕事の命令。

 新月の夜だ。雲が無数に伸びている。手を伸ばしても届きそうにない。
 いつか見た、空を飛ぶ夢。そんな夢さえも、この世界は破壊していく。
 醜くも、汚い鉄の塊が宙を舞う。
 高い塔がそびえているような高層ビル。汚い大人達の夢の結晶。
 いつかその全てが廃れればいい。昔見た、あの荒野のように。
 明るすぎるほどの夜の街。光なんて知らなかった頃の俺は、もういない。
 この光さえ、偽りのものだけれど。
 今回の命令は、ターゲットの暗殺。一人になったところを狙えと言う。
 此処で殺しても、大して変わりはしないと思うが、命令だから、今此処では殺さない。
 追尾していくと、ドームから抜け、懐かしい荒野へと出て行った。
 秩序のない、強いものだけが、生き残る権利を得る場所。
 ターゲットは数人のボディーガードを連れて、一つの廃墟となったビルに入っていった。
 どうやら此処で何らかの取引を行うらしい。殺したい衝動が俺を襲う。
「聞こえるか、ターゲットはドームを出て、廃墟の一つへと入っていった。此処で殺す了承を得たい」
 支給されているヘッドホン型の小型マイクに言葉をかける。本部へとこれ一つで繋がる。
『ターゲットのみですか』
 人とは思えない無機質な声。感情を込めないよう訓練されているのだと言う。
「数名の男を連れていた。きっと取引の相手も一緒だ」
『失敗しないという自信は』
「俺が生き残る自信はある」
『支部から一人、能力を選抜し派遣します。それまで待っていてください』
「…それじゃ遅い」
 今すぐにでも殺したかった。仕方なくターゲットを追っていく。
 そいつが来るのが先か、ターゲットが隙を見せるのが先か。
 どの道足手まといが来るのが落ちだろうけどな。