+Negative/黒の部屋

 遠い昔。たくさんの花が咲き誇る、美しい城があったんだ。
 土地も豊かで、綺麗な川が流れてた。
 そしてそのお城の王様とお妃様の子供であるお姫様は、とても綺麗だったと言われている。
 お姫様は、少し元気すぎるところもあったけど、花を愛する、優しい人だった。

 そのお城には、触れてはいけない部屋があった。
 その部屋の名を口にすれば、たちまち呪われてしまうとまで、言われていたからね。
 でもそのお姫様は、見つけてしまったんだ。その部屋をね。

「ねぇ、お母様。あのお部屋はなんのお部屋なの?」
「あのお部屋、とは…?」
「東の塔のてっぺんにある、鍵のかかった変なお部屋よ」
 それを聞いた妃の表情は、一瞬で変わった。
 まるで怒っているような、それでいて何かに怯えているような、そんな表情だったんだ。
「お母様…?」
「いい、よく聞きなさい。あの部屋には二度と近づかないで」
「どうして?」
「怖い怖いゴーストがでるからよ。あの部屋は、呪われているの」
「でも、悲しそうな声が聞こえるの。とっても苦しそうだった」
「お願い。あの部屋のことは言わないで。約束して。もう、あの部屋には近づかないで」
 その時の妃の表情は、幼い子供から見ても、とても辛そうに見えたんだ。
 そしてそのお姫様は誓った。どんなことがあっても、決してその部屋には近づかないと。

 しかしその約束は、結果としては破られた。
 彼女が12歳の誕生日を迎えた数日後、彼女の母親である妃は死んだ。
 そしてその妃の葬列の時、悪魔が人の姿をして彼女に囁いた。
「知ってるか?例の噂」
「噂…?」
「なんでも、あの城の何処かに、強い力を持った魔法使いを閉じ込めているらしいぜ」
「ほんとかよ」
「その魔法使いの力を使えば、死人でも蘇るって噂だ」
「そんなの、単なる噂だろ?」
「でも、この土地がこんなに豊かなのも、敵が来ないのも、その魔法使いの力を使っているからだって」
 彼女は走った。葬儀を抜け出して。
 悪魔の策謀とも知らずに。

「お母様を、お母様を蘇らすことが出来る…!そしたら、お父様だって喜ぶし…。私だって…!」
 母に会いたいが故に、禁忌に手を染める彼女。
 鎖を解き放ち、巻きついていた茨を取り除き、手から血が滴り落ちようとも、彼女は扉を開いた。
 しかし閉じ込めていたはずの魔法使いの姿はなく、代わりに黒い風が彼女を突き抜け、城から城下へと一瞬にして吹き抜けた。
 
 暫くの間、意識を失っていた彼女が目覚めた時、今までの綺麗な城はなかった。
 偶然立ち寄り、彼女を見つけ看病した旅人が言うには、数百年前まで栄えたこの城は、妃が死に、その葬式の最中に姫まで消え。残った王は発狂し、民は国を捨て、この城は廃れたのだという。
「私は、禁忌を犯した。あれほど、お母様に言いつけられていたのにっ…!」
 彼女は、いや、私は全てを失った。

 …部屋の名前は、"黒の歴史"。
 部屋なのに、歴史だなんて可笑しいかも知れない。
 けれど、あの部屋は歴史を作ってる。黒い、黒い歴史をね。
 作り上げているんだ。悪魔と呼ばれる者達が、あの部屋を操って。

 私は今、花を育てている。
 自分の犯した罪を見つめながら。
 そして語っているんだ。あの悲劇を。
 それが私に出来る、償いにも似た何か。

「花は、いりませんか?綺麗な花ですよ」

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