第二章

 やって来たのは遊園地。最後に来たのはもう大分前。まだ母親が生きていた頃の話。
「こんな所に連れてきて、なにするつもりだよ」
「純に楽しんで貰おうとしたんだが、気に食わないか?」
「別に。で、どう言った風の吹き回し」
「単なる気紛れだ」
 素っ気無い態度。その辺の女と来ればいいものを。
「なにか乗りたいものはあるか」
「ない」
 夜の遊園地。嫌いな雰囲気と言うわけじゃないけど、好きと言うわけでもない。
 あんたに買われてから、自己主張を忘れちまったね。
「観覧車でも乗るか」
「普通最後だろ。ま、あんたが乗りたいって言うなら別にいいけど」
「そうだな、別にどれでもいいのだが…。ジェットコースターにするか」
 気、使ってんな。別にどれでもいいのに。
「…あんま好きそうには見えないけどな」

 不思議な時間だった。
 冷たい風が吹き始めた季節。
 そんな中で、夜の遊園地でこいつと居る時間。
 少し幻想的にも見える。
 初めて味わうそんな感覚。
 知らないうちに手を握られて。
 何故こんなにもこいつという奴は、俺に構うのだろう。

「拓也。今日は何の日だかわかるか」
「さぁ、少なくとも俺に関わってそうな気がするけど」
 観覧車に乗り込んだ俺たち。外の景色を眺める俺。
「お前の誕生日だ」
「へぇ〜」
 そういや忘れてたな。此処何年も、祝ってくれる人居なかったし。
「暇なんだね、俺の誕生日を祝ってくれるなんてさ」
 去年も一昨年もそんなことやってくれなかったのにな。
「そういうのなら、それでもいい。欲しいものはないのか」
「ないよ。あんたのお蔭で、俺はこうして生かされてるんだし」
 別に死んでもいいけどさ。どうせ、悲しまないんだろ。あんたも。
 俺はあんたの人形。あんたが飽きれば、殺してくれたって構わない。
「そうか。…お前、俺の名前は覚えているか」
「とっくに忘れてるよ。大して問題にならなそうだし」
「お前らしいな。…拓也」
 不意に頬に添えてくるあんたの手。重ねる唇。
 楽しいのかよ。あんたはそれで。
 俺は、…最低の気分だよ。

+++

 あの日を境に、あいつは俺の元に来る回数が減っていった。
 どうせ女でも出来たのだろうと、そう思う。所詮俺は人形。
 それなのに、何故あの人は金を出してまで俺を買ったのか。
 どうでもいい考えだけが、脳裏に浮かんで消えていった。

「食材が減っていないな。ちゃんと食べているのか」
「関係ないだろ、あんたには。それとも餓死したらあんたの名に泥でも塗ることを心配してんの?それなら大丈夫だよ。俺は死ぬんなら、もっと楽な方法で死ぬから」
 気がつけば、あいつの左手の薬指に指輪があった。やっぱ女か。
 じゃあ、俺が捨てられるのも時間の問題。
「死ぬとか簡単に口にするな。お前は生きるんだ。どんなに苦しめられてもな」
「主人命令ってことで受け取るよ。ご主人様」
「一回、痛い目に合わさないと気が済まないらしいな」
「今日は機嫌いいみたいですね」
 今にも襲い掛かろうとしてくるあいつを睨みながら。俺は減らず口をたたく。
「…もういい、面倒だ。食事はちゃんと取れ」
「はいはいっと」
 ベッドの上で流すような返事。早く帰れってぇの。
 あ〜、でもこいつが結婚すんのか。奥さん絶対ぇ物好きとかだな。
「拓也…」
「っ…、いきなりかよ。女でも相手してろよ」
 襲い掛かられて、押し倒されて。唇を重ねられて。
 今日は、強引だな。…なんか、あったのか?
 別に関係ないけど。子供っぽいんだよ、この人は。
 冷静な割にはさ。

「っ…は、ぁ……」
 やっと一息ついたトコ。
 あれから休憩ナシでバンバン攻めてくるし。
 マジありえねぇっての。こっちのことも考えろよ。
「拓也」
「…なんだよ」
「女より、この体の方が断然綺麗に見える」
「このゲイ野郎。勝手に言ってろ」
 うざい、耳障り。女よりも綺麗って、別にな。
 下手すればこの容姿だったからあんたに気に入られた。
 こんな容姿じゃなけりゃ、あんたに気に入られることもなかった。
 この顔に傷でも入ったら、あんたはどれだけ落胆するんだ?
「お前は神を信じるか」
「さあな。案外、俺の神はあんただったりして。俺の運命も手の内って感じだぜ」
「褒め言葉として受け取ってやる」
「光栄w俺の神様。出来れば俺の願い叶えてくれない?早く自由になれますように」
「私が死んだらな。もう寝るか。明日も早いんだ」
「ご主人様に睡眠が必要ならば寝ましょうか。でも、その間に俺が逃げてても、文句は言わないでくださいね」
 不意に、抱き締められる。
 何処の子供だよ。俺は抱き枕じゃねぇっての。
「こうしていれば逃げられないだろ」
「気分悪ぃ。今日、絶対悪夢見るなコレ」
 俺は心の中で硬く決意する。
 絶対に、逃げ出してやる。
 単なる、暇つぶしとしてな。

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