死にかけるたびに、俺は自分の無力さを呪った。
 生き延びるたびに、犠牲になった人たちの安息を祈った。

  +第五夜+

 世界が崩れていく。気持ち悪い。無線からは、絶えず叫ぶ声が聞こえる。
 そう必死にならなくても、死ぬときは死ぬんだ。感情を表に出すな。
 情が移れば、その分その者を失ったときの悲しみは大きくなる。
 ならば最初から関わらなければいい。誰かが犠牲になるなんてこともしてはいけない。
「フェイトっ!」
 勢いよく、玄関の戸が開いた。先ほど出て行ったライトだ。
「何故、戻ってきた…」
「馬鹿だろお前!調子が悪いなら最初からそういえよ。ったく…」
 不意に抱き上げられる。他人の体温なんて久々に感じた。
 生きているんだ。ライトは。
「フェイト…?」
「…殺してくれ」
 これ以上生きていたくなかった。他人に関わってまで。他人に迷惑かけてまで。
 昔の俺が静かに涙を流しながら立っているのが見える。
 あれは、俺を拾って育ててくれた人が政府に殺されたときだ。
 あの人は、もう年だった。白髪まみれで。もう少しで天命を迎えてしまいそうなほどの。
 俺はなにも出来なかった。ただ銃を握り、言われたとおりに隠れていることしか出来なかった。
「少し眠れ。俺と一緒なのは嫌だってわかったから」
「嫌じゃ、ないんだ……」
「……?」
 多分、嫌じゃない。関わり方を知らない。触れ方も知らない。
 誰かと一緒にいることなんて、あまりなかったから。
 だから、今此処で、誰かに触れるのもいいかもしれないと思った。
 楽しんでみるというのも、悪くないんじゃないかと思った。
「ライ、ト…」
 深い水底に沈んでいくように、ゆっくりと、抗ってもただ夢へと落ちていく。
 深い深い、闇に引きずり込まれるかのかのように。

 夢の中は暗かった。月明かりですら届かない。
 水溜りのように血が一箇所にかたまっている。
 それが徐々に広がっていて、その血溜まりに何かが映っていることに気付いた。
 あれは…、廃墟の立ち並ぶ荒れ野原。
 呼んでいるのか、俺を。
 不意に後ろを見れば、たくさんの人の影が。
 全て、見覚えがある。あれも、これも…。全て、俺が殺した人たちだ。
 突き飛ばされ、血溜まりに落とされる。
 ――嫌だ。
 湖に落とされたかのよう。必死にあがいても、沈んでいく。体が重い。
 死ぬの、か…。死。それでも構わないな。いや、そうならざる終えないのなら…。
 諦めて目を閉じる。すると、不意に温かいものが触れた気がした。

「……」
「起きた、か」
「……」
「おい…?」
「……」
「フェイト…?」
「……」
 ぼんやりとする。なんでライトが此処に。俺は。
 握っていた銃を目の前に、そしてライトに銃口を向ける。
「おい、フェイト…」
「……なんだ」
 そっと銃をおろすと、ライトは多少安堵したようなそんな表情をした。
「なんか、食いたいものあるか?あるなら、俺作るけど」
「ないな…」
「フェイト。お前そんな冷たい態度だと女に嫌われんぞ?」
「好かれてどうする。そんなもの…」
「まったくお前は。欲って言うものがないのかよ」
「…ないな」
 女なんて興味がない。食べるものですら、なんでもいい。食あたりが起きない程度なら。
 そんな世界に、昔の俺はいたんだ。今さら欲など起こるはずもなかった。