いつの頃からか踏み込んでいた。
汚くも穢れた世界。
+第八夜+
フィアが出て行って数分。ただ、立ち尽くすだけのライト。
あいつが来ると混乱だけがそこに生じる。
「えっと、フェイト。今のは…?」
「猫」
『フィアさんです。二つ年上の。あの人は恐怖と言う名の通り、最恐ですよ!なんでだか知らないけれどフェイトさんを凄く気に入っているんです』
無線をつければ、お喋りな声が飛んでくる。…五月蝿い。
「ライトは、どうしたんだ」
「えっと、俺は…。フェイトがやばいことになってるって聞いて」
「私情に無線を使うな」
『だって…、ライトさんを呼ばなければ、今ごろきっと食べられてましたよ!』
大声で言うな。五月蝿い。
第一、人なんて食べたら腹を壊す。
「…フェイト」
「なんだ」
「…いや、やっぱなんでもない。な、今からじゃ中途半端だから、街に行ってみないか?」
「遠慮「ほら、行こうぜ」
「っ…おい」
無理矢理ライトに引っ張られ、街へ向かう。
人が大量に行き来しているところに行って、なにが楽しいと言うのだろうか。
夕日が沈んでいく時間帯の街は、思っていたほど悪くはなかった。かと言って良いとも言いがたい。
人々があちこちに飛散し、血みどろなあの世界を忘れさせる。
それでも、今この時間帯の街に、溶け込もうとも思えなかった。
平和すぎる日常。窮屈な毎日。外の世界がどんなにも自由だったか。
あの世界がどんなに俺に合っていたか。そんなことばかり考えさせられる。
「フェイト…?」
「…なんだ」
覗きこんでくる澄んだ瞳。全てを見透かされそうで、俺の全てを抱きかかえてしまいそうで、今まで抱いたことのない恐怖が俺を襲う。
「いや、なんかあんま楽しそうじゃなかったからさ。悪いな、無理に付き合わせちまって」
「…そんなことない」
徐々に人が消えていく夕方の公園。そのブランコに、静かに座る。
楽しいと、言えるかどうかはわからないが。なんとなく、幸せな気分にはなれる。
急ぎ足で帰っていくちっぽけな人たちを見るだけで、心が温まっていく。
あの幸せそうな笑み。俺も、普通に生きていたのならば、他人の命を奪うことなどせずに、ただ、幸せに暮らして居れたのだろうか。
「お前は今、幸せか」
不意に口から零れた言葉。この男に抱いた疑問を、全てまとめて訊ねているような質問だ。
正体を知ろうとは思わない。そこまで深入りする義務もない。それで、充分であろうと言う質問。
「俺、か?…俺は、そうだな。お前と出会えて、少し幸せだと思えたから。生きていた中では、幸せだな」
遠くを見つめるようなそんな目線。それでも、俺よりは断然と言っていいほど、俺にはライトが強く見えた。
「色々と周ってみないか?」
「そうだな」
折角、お前に連れ出してもらったんだ。差し出された手を取り、ブランコから立ち上がる。
夕日を見送る公園に背を向け、人々が溢れかえる大通りに二人の姿は吸い込まれていった。
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