廃墟の中、埃の積もった部屋。其処がただ居心地がよかったと思えた時期もあった。
 部屋の隅にはくだらない大人たちの頭蓋骨が詰まれていた。

  +第九夜+

 繋がれた手に自然と視線がいく。それがただ温かくて、さっきより強くその手を握った。
 あれから、たくさんの所をまわった。古本屋・ゲームセンター・古着屋等々。
 全てが新鮮で、全てが温かかった。
『楽しそうですね』
「そう、かもな」
 ぼそりと聞こえた声に、隣の男には気付かれないように返事をする。
 殺人とは違った高揚。今まで知ることのない生き方。目の前の背中がとても大きく見える。
「フェイト」
「なんだ」
 ライトには、笑顔がよく似合う。まるで、太陽のようだ。
 温かすぎて、近づいてはいけないのではと思える。
 太陽に近づぎすぎた英雄は、翼をもがれ地へ堕とされる。
 英雄ではなく、咎人ならどうなのだろうな。
「夜も、もう遅いしさ。俺のホームの方に行かないか」
「いいのか」
「まだ荷物整理してなくて散らかってばかりだけどな」
 あっさりと次の目的地も決まり、ライトと一緒にホームへと向かった。

「なんもないけどさ。すぐ、飯の用意をするな」
 片付け途中のライトの部屋。自分の以外の部屋に入ったのは、あの組織に買われて以来初めてだった。
 不思議な感じがする。暫くの間ただなんとなく行ったりきたりしていた。そして見てしまった一枚の写真。
 見知らぬ人が映っていた。優しそうな笑みの人。ライトと仲良さ気に映っている。
 幸せそうなライトの表情。きっと、大切な人なのだろうな。
 不意に、心のどこかで破ってしまいたいというような気持ちが生まれた。痛く、重く、暗い思いだった。
 嫌な、奴だな。他人の幸せすら願えないなんて。あいつには幸せになってもらいたい。そう、思っているはずなのに。
「フェイト…?飯、できたぞ」
「あぁ、わかった」
 立たせてあった写真を、そっと伏せた。あいつが大切にしている写真なら、それはそれでいいと思ったからだ。
 それでも、何故か気が晴れない。まるで徐々に体を蝕んでいく毒のように。俺の心を溶かそうとしていた。

「どうか、したのか?」
「いや。…なんでもない」
 ライトの作ってくれた料理を口に運びつつも、どこか頭の隅でライトのことを、さっきのことを考えてしまう。
 楽しかったはずなのに。温かいと思えたはずなのに。どこか、心が痛む。人を殺したあとのようだ。
「…不味かったか?」
「大丈夫だ。お前の料理は美味い」
『フェ、フェイトさんが他人を褒めた!』
 聞いていたのかと思うようなタイミングで、いつもの声がする。…喧しい。
「具合でも悪いのか…?」
「平気だ。…今まで、見たことのない世界を見て、俺が居た世界を少し、振り返っていただけだから」
「…フェイト」
 とっさの小嘘ではあるが、それについても考えさせられた。
 平和の中で外の世界を知らずに生きる幸せな日々。
 心配させないようにと思ったのだが、ライトは余計に傷ついたような表情をした。
 そして、決意が満ちた表情にへと変わる。
「…生きるためなら、俺が全部養ってやるから。お前は、この世界で生きろ」
 この世界、要は人を殺さずに生きろ、と。優しい眼差しでそう言うライト。
 でも、俺はもうあの世界から抜け出せない。抜け出せられる訳がない。
『ライトさん…』
「…残念だが、俺はこの銃を手放す気はない。それに、誰かの犠牲の上で生き長らえたくはないんだ」
 今までのような、あんなふうになるのは二度とごめんだ。誰かに守られながらは生きたくない。
 それに、逃げ出すには遅すぎた。この手を血に染めて、誰かを殺す快楽を覚えながら。あんな世界で生きていけるはずがない。
 一度その味を覚えてしまったら、忘れられるはずがないんだ。
「そう、か。ごめんな、変なこと言って」
「お前はどうなんだ」
 お前なら、あの世界に戻れる切符はまだあるはずだ。戻るなら…。
「俺は、…折角お前と組めたんだぜ。まだまだ居るさ。そんで、お前みたいに戻れなくなる予定」