過去に知れなかったことを、今知る。
 それはこんなにも辛く、そして温かいことだった。

  +第十夜+

 不意に髪を撫でられる。「な?」と目線を合わされて。
「あんまり自分を責めるなよ」
 なんでこの男は、こうまで俺に構うのだろう。
 出会わなければよかった。そうまで思えてしまう。
 …嫌いになりそうだ。
「さ、飯食べちゃおうぜ。おかわりあるからな」
 何故笑っていられるのだろう。辛くはないのだろうか。
 人を殺して、なんとも思わないのだろうか。
「風呂、入っちゃえよ?その間に布団…って!」
 慌ててライトが多分、寝室へと向かう。
 なんとなく俺はそのまま食べ続ける。そしたらライトの呟き声が聞こえた。
「布団、ねぇんだ…」
 今あるのはベッド一つだけということで。
 なんだそんなことかと思いながら、食べ終えた食器を流し台に置く。
 そして風呂場へ向かう。
「おいフェイト…」
「ベッドはライトが使えばいい。いつもソファーで寝かしてしまっているからな」
「お前、此処にはソファーなんて言うたいそうなもん」
 ないんだぞ、とそう言いたげだ。
「見ればわかる。毛布くらいはあるんだろ」
「まぁ…」
「それなら、結構マシな方だ。直に地面で寝るわけでもないのだから」
「この間倒れたばっかだろ。本調子でもなさそうだし、ベッドはフェイトが使えよ」
「俺なら平気だ。このくらいどうってことない」
「でもな…」
 なにがなんでも俺にベッドを使わそうとするライト。話が終わらない。
 互いが互いのためを考えているのに。
「おいっ…」
「風呂に入ってくる」
 単なる言い訳だ。逃げるための。それでも、少し間を置きたかった。
 あいつの優しさに、あまり触れていたくない。

『フェイトさんも素直じゃないですよね』
「どういう意味だ」
『そのままの意味ですよ』
 無邪気そうに言う無線の相手。人事だと思って楽しんでいないか。
 風呂場は一般的なつくりで、モチロン湯船もあった。
「…あいつと、知らない奴が映っている写真があったんだが。…どう思う」
『気になるんですか?』
「なにも、知らないからな」
 あいつのことはなにも知らない。あいつも俺のことをなにも知らない。多分。
 それなのに、何故、あいつは優しくしてくれるんだ。…俺にだけじゃないのかもしれないが。
『女の方だったんですか』
「あぁ」
『家族の方とか、親戚、同級生、幼馴染、もしくは、彼女とかですね』
「……」
『それでも、今、彼女がいるのなら。こんな仕事はしていないのでしょうけど』
「…悪かったな」
『いぇいぇ。またいつでも相談してくださいね♪』
 無線を置く。水面に小石を投ぐように、心に波紋が広がっていく。
 凍りついた心が、徐々に溶け出していく。その波に飲み込まれそうで。恐怖が俺を止める。