ただ銃口を人に向ける。その瞬間、人の表情が恐怖に染まって。
 躊躇いながら、引き金を引く。

  +第十二夜+

 静かな夜。無線も外して、銃だけはしっかりと肌身離さず。隣にある背中がただ広く見えた。
 電気を消して数分も経っていない今の状況。
「…ライト」
「なんだ?」
「落ちないか、そっち」
 完全にこっちの方が広い。30cmほど、間があいている気がする。
「平気平気。それよりそっち狭くないか?」
「平気だ…」
 再び訪れる沈黙。だから、そっとくっついてみる。
 人の体温ほど、温かく心地よいものはない気がする。
 人に触れる怖さだけしか知らなくて。触れたときの快さなんて、恐怖にかき消され忘れていた。
「フェイト、…銃当たってる。無線と同じとこに置いておかないか?」
「…そしたら多分眠れない。…いや、なのか?」
「銃口向けられてたら、俺が眠れない自信はあんだけど…」
「なら…」
 あっさりと渡す。一度も、他人に触れさせたことのない銃だ。
 いつも持ち歩いていた、俺の過去を知る唯一の手がかり。
「…見える範囲に置いてくれないか」
 我侭なのはわかっているけど、せめて…。
「了解。安心しろ、誰も取りやしないから」
 この男と居ることで、自分の価値観が変わってきていることに気付く。
 情が、移ったな。
 とても恐れていたこと。それでも、こんなにも温かい。
 いつかはなくなってしまうのなら、手放さなくてはいけないのに。
 自分を止められず、求めてしまう。俺の犠牲にだけは、なるな…。
 心の底から祈る。神など信じたことはないけれど。
「ライト…」
 抱き締めたかった。振り向いて欲しかった。
 優しすぎたんだ。コイツが。
 呪いそうで怖い。自分がどうなるのかがわからない。
 止まればいいと思った。自分の心が。これ以上求めないで欲しいと願った。
 道が違うんだ。俺と、こいつでは。
 泣きそうで怖かった。早く朝になればいい。
 そうすれば、コイツから離れられる。
 夢なら、今すぐ覚めてくれ。辛い思いはしたくないから。

 結局、起きたのは次の日の昼頃だった。ライトに起こされて起きた。
 夢ではないのだなと、そう思った。
「……大丈夫か?顔色悪いぞ。…やっぱ窮屈だったか?」
「平気だ。…今日の仕事は」
『フェイトさんに一件です』
 思えば、無線はいつ寝ているのだろう。
「俺にはないのか」
『はい、ありません』
 すっきりと言うな…。仕事のことは、感情を込めていないように感じる。
「じゃ、フェイト。昼飯食べちゃえよ。冷えないうちに。そしたら俺は、荷物の整理だな…」
「…わかった」
 この気持ちのことを聞きたかった。痛くて、苦しくて、それでいて温かい。
 でも、あの写真を思い出して止めた。
 当分。ライトに相談なんて出来そうになかった。