至福のときは、同時に痛みを伴う。
 幸せなんて俺には似合わない。

  +第十三夜+

 仕事をすれば、嫌と言うくらいに前の自分が思い出せる。
 わかっている。あいつの傍に居ない方がいいことくらい。
 それと同じくらい、あいつが何処にも行かないことを願っている。
 誰か、俺を止めてくれ。
 微笑みながら、苦笑しながら、ただ人を殺していく。
 ぐちゃぐちゃな人々。それを見た瞬間、あの日の夕陽を思い出して。
 同時にライトの顔が思い浮かんだ。
 気持ち悪い…。
 人を殺したという罪悪感からか、この気持ちが晴れることはない気がしてくる。
 気持ち悪い…。誰か、俺を殺してくれ。
 あんな世界にいたくない。殺して、壊して、狂わせて。
『大丈夫ですか…?』
「平気だ…。少し休めば…」
 流れ溢れてくる涙が止まらない。生存者が居るのならば俺を殺してくれ。
 慣れるはずのない罪悪感。もう、嫌だ。
 でも、今ここで泣けるだけ泣かなければならない。
 あいつの前で泣きたくない。そう、思えたからだ。

 ホームに戻ると、あいつが必ずといっていいほどの明るい笑みで、出迎えてくれる。
 それが唯一の救いだった。俺は、弱くなったのか…?
「フェイト、…大丈夫か?」
「平気だ。…ライト」
「ん…?」
「いや、なんでもない」
 言えるはずもない。俺が狂っているだけだから。
 わからなくなりそうで怖かった。狂ってしまいそうで怖かった。
 狂いたいのに、壊れたいのに。俺は、なんなんだ。
「無理、するなよ?」
「…ああ」
 一瞬だけした、女のような香り。ライトの匂いとは別の…。
 俺は、所詮組織の犬だ。無駄な感情なんて、必要、ない。

 ライトと同じ仕事が来るのは、10分の3くらいの確立だった。
 ほとんどが、違う仕事だ。そして今日、仕事に向かうときに嫌なものを見ることになった。
 一瞬だけ見えた、ライトの姿。混雑する人込みの中だ。楽しそうに、女と歩いていた。
「っ……」
「フェイト…?」
 逃げようとしたら、急に腕を掴まれた。そしてライトは女に何かを言った後、女はすぐに離れていった。
「…場所、変えるぞ」
 移動したのは人気のない裏地。逃げようと抵抗したのだが、それでもライトの方が強かった。
 それ以上に、ライトの表情が怖かった。
「で、なんでフェイトが此処に居るんだ?」
「仕事だ」
「こんなとこまでか」
「あぁ」
「フェイト…」
 不意に手を離されて。そして、ライトは俺の前に立って、俺の後ろの壁に手をついた。
「……」
「っーたく。んなに怯えんなよ。自分に苛ついてるだけだから、な?」
 いつものような調子だ。それでも、わからない。そのわからないことさえ、わからない。
 ただ、なんとなく嫌だった。
「……」
 こいつの名前さえ、呼ぶことが出来ない。鼓動は早いのに、体は麻痺しているかのように動かない。
 なにが、起きたんだ。辛くて痛いのはわかる。なにが辛いとか、何処が痛いとかまでは、わからないのに。
「…フェイト?」
「……ライト」
 やっと、名前を呼ぶのが精一杯だった。