昔は、明日も同じ空が広がるんだと思っていた。
今は、違う空が広がることに気がついた。
+第十四夜+
怖いと思った。この男が。苦しいと思った。今、抱いている感情が。
「……ライト」
やっと言えた言葉。それが精一杯だった。
感情なんてただ面倒なだけなんだ。あの頃のようにただ、人を殺していれば楽だった。
わかっている。こいつが求めているものくらい。
俺がこいつを求めるのと同じように、こいつは俺じゃない他の誰かを求めているんだ。
優しさなんて、罪だな。
「…フェイト、お前」
徐々にライトの顔が近づいてくる。俺は、なにを求めればいい。それとも、なにも望んではいけないのか。
一日でも、長く生き長らえればいいか?違うな。俺はそんなこと望んではいない。
あと、数センチのところでライトの顔が引いた。代わりに、指で涙を拭われる。
泣いて、いたのか…。
「ごめんな。怖かったんだよな?」
「俺を子ども扱いするな。第一同い年なんだろ」
「まぁ、ああ、うん。…じゃぁ、なんで泣くんだよ」
「泣いて、ない」
「嘘付くなって」
「嘘なんかじゃない」
多少、むきになってくる。…止めてくれ。
「わかったわかった。だから、ちゃんと戻って来いよ?晩飯作って待ってるからさ」
髪を撫でられて、この心地良さが嫌なんだ。
放っておいてくれればいいのに。
仕事仕事仕事な毎日。それが当たり前だったし、苦とも思わない。
でも、徐々にあいつと会う時間が減っていく。あいつも、ホームに居る時間が減ってきているようだし。
痛い、な。最初から構ってこなきゃ良かったのに。そうすればこんな気持ち知らずに済んだんだ。
『フェイトさん、一回自分の気持ちを素直に言った方がいいですよ…?』
「……そう、だな。…今日の仕事は」
『…今回はライトさんと一緒です。A級の、とある場所での殺害』
「わかった…」
『フェイトさん…』
体が重い。徐々に疲れが積もっていくようだ。だからと言って、仕事を休むわけにはいかない。
いや、どちらかと言うと心が重いのかもしれない。痛むんだ。どうしようもないくらいに。
あいつが、なにをしているかわかるからかも知れない。
夜、久々にライトと顔を合わせたような気がする。
「…大丈夫か?顔色悪いみたいだけど」
「平気だ」
痛いな。そして気分も優れない。血の匂い、死臭。…最悪の場所だ。
情報によると、相手は化け物じみているらしい。それ以外の情報は入ってこなかった。
空を見上げれば、前とは変わらぬ月が浮いていた。ドームの外の世界。どちらにも拒まれているようだ。
優しい緩やかな風さえも、今は死臭を運ぶ邪険な風だ。
指定の時間、指定の場所にそいつは現れた。
体のあちこちに傷があり、そしてその上その部屋には人の死体がたくさん転がっていた。…最悪だ。
それでも、敵が背を向けた瞬間、飛び出し銃を構えて撃つ。
しかし敵は本能でかそれをかわし、持っていた新しい死体を身代わりにした。
そしてその銃の穴から、その死体の皮を剥がしにかかる。
「……っ、」
気持ち悪い。それも絶頂だった。
次の瞬間に、その死体と目があって、耐え切れなくなって部屋の隅に膝をついた。
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